そして、失恋をする
「じゃあ、とつぜん呼び出して怒ってる?」

「怒ってないよ」

僕は、短く答えた。

「陸君は、優しいね」

「え?」

クスクス笑う千夏を見て、僕は首をわずかにかたむけた。

「だって私の一方的な誘いだったのにちゃんと来てくれて、しかも怒ってないんだから」

千夏は半分僕が来てくれないと思っていたのか、安堵した表情を浮かべた。

「僕がもし来なかったら、どうしてたの?」

「どうしてたと思う」

「わからないよ」

「きっと、バイクか車に轢かれて死んでたんじゃないかな」

「え!」

暗い声で言った千夏の言い方に本気さが伝わって、僕の心臓がドクリとイヤな音を立てた。

「来てくれて、ありがとう」

明るい声で言った千夏の感謝の言葉が、さっきよりも感謝しているように聞こえた。
< 70 / 188 >

この作品をシェア

pagetop