そして、失恋をする
「初めて僕と会ったときは病院の外だったけれど、あれからまた入院したの?」

「ううん、入院生活だよ」

僕の質問に、千夏は細い首を左右に振った。

「看護師さんに言って、外出許可をもらったの。だから、陸君と会ったときは病院の外だったの」

「へぇ、そうなんだ」

そう返事した僕だが、入院患者が外出できることはこのとき初めて知った。

「ずっと病院の中にいると、自分がなんのために生きてるのかわからなくなるの」

「え!」

「だから私、あのときバイクか車に轢かれて死んでやろうと思ったの」

千夏の言い方に本気さが伝わって、彼女はやっぱりあのとき自殺するつもりだったことがわかった。

「もしもあのとき、僕と会ってなかったら君は死んでたの?」

「死んでたでしょうね。あのバイクけっこうスピード出てたから」

僕の質問に、千夏はなぜか笑って答えた。

「あのとき陸君が助けてくれなかったら、私はバイクに轢かれて死んでました。そしたらネットニュースにもなるし、テレビでも報道すると思います。もしそうなっていたら、陸君は悲しんでくれましたか?」

「それは、むりだ」

僕は、即答した。

あのとき千夏を助けないということは、彼女と僕は会ってないということになる。つまり、赤の他人だ。赤の他人が亡くなっても、悲しみの感情なんてない。
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