そして、失恋をする
「そうだね」

そう言って千夏は、クスッと笑った。

「じゃあ今、私が死んだら、悲しんでくれますか?」

「そりゃ悲しむよ」

それは、ほんとうだった。

僕と千夏はもう赤の他人ではなく、名前も教え合った知り合いだ。しかも、千夏は僕の好きだった千春にそっくりだ。いま千夏を失ったら、悲しいに決まってる。

「そうだね」

そう言って千夏は、今度は悲しそうに笑った。

「陸君は、学校に好きな人とかいないの?」

「え、いきなりどうして?」

千夏の質問に、僕はあせった様子になった。

「気になったの。陸君は、学校に好きな人とかいるのかなぁと思って。それで、いるの。好きな人?」

「いないよ」

「ほんとに?」

「ほんとうだって」

すっと顔を近づけた千春に見つめられて、僕の顔がかすかに赤くなった。

「そう、いないんだ」

口元をゆるめた千夏はうれしいというよりも、どこかさびしい表情をしていた。
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