そして、失恋をする
「実はね、私もなんだ」

「えっ!」

「陸君と違って出て行ったのは母親ではなく、父親なんだけどね」

そう言って千夏は、舌をペロッと出した。

「私の父親が出て行ったのは、今から五ヶ月前。今年の春のとき」

「そうなんだ」

千夏の言葉を聞いて、僕は小さな声で答えた。

「さみしかった?」

「さみしかったよ。けれど、こうなることはなんとなくわかっていたから」

できるだけ明るい口調で答えた千夏だったが、彼女の瞳はかすかに潤んでいた。

「私の家族も両親共働きで、父も母も一生懸命働いてくれていた。そして、私のことを大切に育ててくれていた」

「そうなんだ」

過去を思い出しながら話す千夏は、なんだか僕には悲しく見えた。

「けれど一年前の夏に、私の体に癌が見つかったの。十六歳の夏の日だった」

「えっ!」

千夏の口から発せられた衝撃的な言葉を聞いて、僕の脳がフリーズした。

「がん‥‥‥‥」

かすれた声で僕がその言葉をつぶやいたのを見て、千夏は細い首を縦に振った。
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