俺の彼女が一番可愛い!
* * * * * 

「ただいま。」

 一応小さい声で言うと、ドアの音に反応した綾乃が「おかえりー!」と言ってくれた。

「ラストまで、お疲れ様。」
「岡田くん、付き合うことになったって。」
「え!?ほんと!?わーすごい!ようやくだー!」

 にっこりと微笑んで、綾乃はが喜んでいる。そんな姿を見ると、本当にこの人を好きになってよかったと思う。健人はそっと、綾乃の座るソファーの隣に腰掛けた。

「…はぁー…好き。」
「はい?」
「ただ好きなんだよなぁって、本当に思うよ。」
「ごめん、何の話?」
「人の幸せを、幸せだって思える綾乃ちゃんだから、好き。」
「…無条件で人の幸せを幸せだって思えないけどね、本当は。」
「え?」
「人の幸せを喜べるのは、自分が今幸せだからだよ。少なくとも、私は自分が幸せじゃなきゃ、人の幸せは喜べない。」
「綾乃ちゃんは、幸せなんだ今。」

 真面目な表情がすぐに柔らかいものに変わった。

「うん。幸せだよ。」
「…安心した。」
「え?」
「幸せじゃなかったらどうしようって。」
「幸せに決まってるでしょ。どんだけ甘やかしてもらってると思ってんのよ。」
「それ、絶対俺の方なんだけどなぁ。」

 そう言いながら、健人は綾乃の肩にもたれた。

「早くお風呂入っておいでよ。私先に寝ちゃうよ?」
「先にベッド入ってていいよ。どっちにしろぎゅってして寝るし。」
「…ほんと好きだよね、ハグ。」
「ハグも好きだけど、…綾乃ちゃんのことが好きだからだけどね、ハグするのは。」
「…わ、わかってる。オッケー、平常心。」
「え?」
「…想定してるときはね、いいのよ。でもね、ぼーっとしてるときにさらっと言われるとまずいから、早く入って。」
「照れ…てる?」

 顔を覗き込もうとすると、その顔は思い切り隠された。

「え、見せて!」
「だめ!早く入って!」
「え~!だって照れる綾乃ちゃんってなかなか見れないし!ねー!」
「だめ。いいから…!」

 掴んだ腕。細い指の隙間から見えた、少しだけ染まる頬。これは酒のせいじゃない。
< 24 / 41 >

この作品をシェア

pagetop