いつか、きみの空を。
「兄妹って言わないで。それ、きらい」
わたしが言わせなかったのに、その二文字を口にしたから、葵衣は追いかけて伸ばしかけた手をぴたりと止めた。
ふたりの間に取り残されて、戻ることも伸ばすことも出来ずにいる手を、握りたくて堪らない。
同時に、こんな葛藤があと二年も続くのかと思うと、座っていても足許が不安定に感じるほど強い目眩がした。
「双子って言えばいい?」
「ちがう」
「じゃあ、なんなんだよ」
言い方の問題じゃないことはわたしが一番わかってる。
どう言い換えたってわたしと葵衣が双子の兄妹であることは変わらない。
「……わたしに」
もう何も喋らずに、この場から立ち去ればいい。
部屋に篭ってしまえば、葵衣は追いかけてこない。
「妹ってことを忘れて、触れることが出来る?」
あれほど逃れたかった葵衣の目を真っ直ぐに見つめて、問いかける。
まだ宙に置かれたその右手を、伸ばせるか、伸ばせないか。
ねえ、葵衣、どうなの。
「妹に触れたいなんて思わない」
手の甲を上向けたまま、葵衣はわたしから目を逸らさずに言った。
わかっていたことだった。
こんなことになって、きっと葵衣はわたしに触れることもなくなる。
初めから結ばれていた糸をぷちんぷちんと、お互いに痛みを与えながら切っていく。
一本ずつ、なるべく傷が残らないように、優しく。