無愛想な仮面の下
「おい。」

 不機嫌そうな声に肩を揺らして顔を上げるとモジャが立っていた。

 カーディガンが机に置かれ、彼は去って行く。

「あ、あの。」

 私の呼びかけに彼は止まることはなかった。

 それはそうか。
 無愛想で不機嫌で、彼が誰かと笑い合っている姿を見た人なんていない。

 私と雑談するような人ではない。

 しょぼくれていく心は思ったよりもショックを受けていた。

 カーディガン貸してあげたのにさぁ。
 ちぇ。



 もう一度、企画に目を移して頭を悩ませていても一向にドアが開く音がしない。
 それどころか遠ざかった足音が再び近づいて来た。

「今、何時。」

 戻ってきたモジャはつっけんどんにそれだけ口にした。

 そんなに私と話したくないなら資料室を出てから自分で見ればいいのに。
 というより資料室のどこかに時計なかったっけ?

 もしかして私がさっき呼び止めたから戻ってきてくれたとか…。

 鞄の中から携帯を取り出して時間を見る。
 見る…見る………見る?

「ごめんなさい。
 携帯の充電、切れてました。」

 恐る恐る伝えると大きなため息とともにモジャは壁際にもたれるようにしゃがみ込んだ。

「使えねぇ。」

 モジャの一言にカチンと来て「あなたに言われたくありません!」と出かかった言葉を飲み込んだ。
 こんな人とやり合うのは無駄だと思ったから。





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