無愛想な仮面の下
16.ほだされた馬鹿
「愛美は能天気な奴で、お前に少し似てる。」

 急に始まった打ち明け話に胸がギューッと痛くなった。
 抱き寄せられたまま腕の中で聞かされる話にしては残酷過ぎると思う。

 佐久間さんは話を止めるどころか続きを話した。

「……同じわけないのにな。」

 回されていた腕に力が入ってきつく抱き締められた。
 そしてそっと頭上にキスを落とされてどんな状況なのか理解し難い。

「愛美はあんたみたいに努力しないし、企画も万年ボツなんてありえない。」

「………すみませんね。ぼんくらで。」

「そんなに腐るな。」

 髪に手を通して頭を撫でる佐久間さんは慰めているつもりかもしれないけど、佐久間さんが私を非難してるんですからね!

 抱きしめたまま顎を頭の上に乗せた佐久間さんに「痛いです」と文句を言った。
 フッと笑った佐久間さんが想像し得ない言葉を口にした。

「愛美と違うから気になるし、馬鹿なことばっかするから放っておけないんだろ?」

 そんなこと疑問形で聞かれても私は知らない!
 急激に顔が熱くなって早くこの状況を打破しなければと、やっと正しい判断を思いついた。

 佐久間さんを押し退けて狭いベンチシートの中で距離をとった。

「とにかく。今はお腹空いてます。」

 店内が薄暗くて良かった。
 今、きっと顔が赤いに違いない。

 吹き出したみたいな笑い声が聞こえて「そうだな。食べよう」と朗らかな笑顔をしているであろう声がした。

 佐久間さんの方なんて向けるわけがなかった。








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