ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
すると、彼女は細く白い指で、テーブルの上座の向こうの壁に飾られたヴァイオリンを指差した。
「あのヴァイオリンが、何か?」
彼女が席を立ち、そのヴァイオリンのほうへ歩いていったため、私たちもそれに続いた。
古く寂れたヴァイオリンに見えるけれど、その弓と弦は、一本一本が美しい金色に光っており、神々しい雰囲気を纏っている。
私だけではなく、珍しくアルバさんもそのヴァイオリンに見とれていた。
「……このヴァイオリンは、弦にはペガサスの腸が、弓には同じくペガサスの尾が使われています。神聖な生き物を生け贄にして作られた、この世にたったひとつしかないヴァイオリンです」
「こんな姿にされたペガサスにゃ気の毒な話だな。で、それがなんだ」
「……このヴァイオリンは、わたくしが長年探し求めていた品なのです。一度でいいから、ペガサスの怨念の籠ったその音を奏でてみたい、と……。しかし持ち主は転々とし、いつしか政府の手に渡っていました。今夜開催されるオークションに出品される予定のものだったのです。資産家の手に渡ればまた行方知れずになりますから、このオークションが最後のチャンスでした。……しかし、とてもわたくしに競り落とせる相場ではなかった……」
政府主催のオークション、その話は以前も聞いたことがある。
館に権力者たちが集められ、効果な品を競売にかけ、それが政府の財源となる、と。
「で、オークションの品が、なんでアンタの家にある」
そう問い詰めると、彼女の頬に一筋、涙が伝っていった。