ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
アルバさんはその街でとあるバーへ入った。
中には派手な服を着こんだ貴族ばかりがいて、その人混みを縫うようにしてカウンターへと近づいていく。
彼はマスターらしき男性に「ブラッディ・マリーを」と注文すると、マスターは私のこともちらりと見て、「おふたりですか?」と聞いた。
「ああ」
アルバさんが答えるとマスターは頷いて、「こちらへ」と私たちをカウンターの中へ引き入れる。
「この店は館への入り口なのです」
私の首に隠れているノア君がそう囁いた。
この状況では返事はできないから、ノア君に分かるようにコクリと頷いてみせた。
案内された場所は、お手洗いのように店内にぽつんとある古い木の扉の前だった。
アルバさんはドアノブに手をかけ、それを開けると、ドアの先には真っ暗な闇が広がっていた。
ただの古いバーの店内なのに、この向こう側は違う世界に繋がっているかのような深い闇だ。
ヴァンパイアの館で見た、下界への扉と同じ。この闇の先はきっとあの館だと思った。
「行くぜ、お嬢ちゃん」
「は、はいっ……!」
差し出された手をとり、私は目を閉じてその闇の中へと飛び込んだ。