ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
底無し沼のような暗闇が怖くて目を閉じていると、しばらくして、ストンと足が地についた。
かすかに、前に聞いたことのあるオーケストラの曲が聞こえている。
耳元で「アカリ様、着きましたよ」とノア君の音声案内が入り、ゆっくりと目を開けた。
そこはまぎれもなく数日前にも来たことのある、あの洋館に違いなかった。
暗闇から瞬間移動して降り立ったこの場所には、豪華なホテルの受付のごとく、いくつかのカウンターに対して貴族たちの行列ができている。
「オークションの開催期間のため、手荷物の検査があるようです」
自分の手荷物は何もなく、髪の毛に隠れているノア君さえ見つからなければ問題はない。
問題があるのはアルバさんのほうだ。
私は心配で彼を見た。
余裕のある素振りをみせているが、たしかコートの中には、あのリストの束が入っているはず。
「アルバさん……」
「大丈夫だって、心配すんな」