ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
歓声に包まれる中、ここでシュヴァルツさんは少し黙り、私に目を向けていた。
私は頬を伝っていた涙を手のひらで拭い、不安を顔に出したまま見つめ返すと、彼は一瞬、フッと微笑んだように見え、そしてすぐに、口を開いた。
「五十万」
会場はシンと静まった。
「ご、ごごご、五十……!?」
司会者が声を詰まらせた後、ハインリヒも「馬鹿な」と呟く。
それをきっかけに、これまでで一番の歓声が、会場を揺らす波のように押し寄せ、私たちを飲み込んだ。
「な、なんと門番シュヴァルツ!金貨五十万をコール!対してハインリヒ伯爵は……!?」
ハインリヒのこめかみから、汗が一筋流れていった。
彼はギュッと噛み締めた歯列をカタカタと震わせ、額に浮かび上がっている血管ははち切れんばかりに脈を打っている。
その様子に司会者がマイクで「ヒッ」と声を漏らすほど。
緊張感のある沈黙がしばらく続き、皆がハインリヒの顔色を伺ったが、どれだけ待っても、ついにコールはなかった。
司会者はハンマーを大きく振りかざし、力いっぱい打ち付けた。
「決まりましたー!今宵すべての人間を手に入れたのは、なんと門番シュヴァルツ!極上の純潔を金貨五十万枚で競り落としましたー!」
歓声が上がる中、シュヴァルツさんは風のように一直線にこちらへと向かってきて、私を抱き寄せると、この場から連れ去った。
いつもなら彼にすがるように抱きつく私だが、今は私のために多くを失った彼に、涙の溜まった目を向けることしかできない。
「シュヴァルツさん……どうして……」
「言っただろう、必ず助けると」
その自信に満ち溢れた表情に、私はついに、涙が関を切って流れ出したのだ。