ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
シュヴァルツさんはこうして誰かに追われる人ではなかったはず。
誰もが羨み、尊敬し、熱い視線を向けていた。それが今はどうだろう。
私と出会って、何かひとつでも、彼に良いことなんて起きただろうか。
「泣くな。もうすぐ帰れる」
ごめんなさい、シュヴァルツさん。
優しい言葉をかけられる度に、そんな気持ちになった。
そのとき、彼の背後で声がした。
「果たしてそうかのう、シュヴァルツ」
その呼び声が最後まで聞こえる前に、目の前のシュヴァルツさんの胸は離れ、素早く背後に反応していた。
私は彼の体の向こう側で起きていることをようやく把握した。
そこにはネロがいて、老人の見た目には不釣り合いなほど鋭い爪を五本刃物のように集め、シュヴァルツさんの喉元に突きつけていたのだ。
シュヴァルツさんは、ネロの手首を掴み、どうにかそれが喉に刺さる数センチ手前のところで止めている。
「……ネロ」
冷静だったシュヴァルツさんも、二文字の言葉の中で、わずかな動揺を隠せていない。