ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
しかしジタバタと身動ぎしても、この人の腕はびくともしない。
「声を出すな。何もしない」
目と鼻の先にあったその顔はついに喋った。
彼の声を聞いた瞬間、ピピンと体が硬直する。
この声は、暗闇で私を呼び続けていた声だ。暖炉の中で聞こえてきた、あの甘い声。
今までよりも柔らかさの混じったそれに、私は戸惑いながらも暴れることをやめていた。
私の興奮がおさまったことを確認すると、彼はやっと口から手を離す。
「貴方、誰……?」
今の今まで緊張状態が続いたせいで、動きを止めてもハァハァと息が切れ、肩が上下する。
どうにか落ち着いて、目の前の人の顔を見た。
艶のあるウェーブの黒髪に、透き通るくらい白い肌、そこにはめ込まれた宝石ように輝く赤い瞳。
通った鼻も薄い唇も品があって、それぞれのパーツの配置は絵画に描かれた貴公子のように適切だ。
その美しさに、思わず息を飲んでいた。
「落ち着いたか」
「は、はい……」
いや、見惚れている場合じゃない。
ここはどこ、この人は誰?
私はあれからどうなったの?
抱き抱えられたまま、辺りに目をキョロキョロと泳がせた。