ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
世界の狭間でしか聞こえない煩わしい音が耳鳴りのように響く。
彼は微笑んでいる。かろうじて掴んでいる彼の腕を絶対に離さないように力を込めた。
扉の亀裂は大きな音とともについに破られ、崩れ落ち、そこからベルベットの真っ赤な軍隊が雪崩れ混んできた。
「シュヴァルツさん!後ろ……!」
シュヴァルツさんの背後に騎士団が迫っている。
「シュヴァルツさん!」
「お前に会えて良かった」
「シュヴァルツさんってば!」
彼は私の手を、少しずつ放していく。放されれば、私を包んでいるこの光が、この体を人間界へと連れていくのだろう。
シュヴァルツさんの背後に迫るベルベットの騎士団たちはスローモーションに見えた。
あと五秒、それが彼との最後の時間。
「シュヴァルツさん、私、貴方が好きです……!初めて誰かを好きになりました!」
言い終えた後、騎士団がシュヴァルツさんに向かって剣を振り下ろす。
「ああ。俺もだ」
映像は途切れ、最後にふわりと頭に置かれた彼の手は温かく、その手のひらにそっと後ろへ押されると、私の背中は光の中へ落ちていく。
光の中で振り返ってもそこにはもう何もなくて、やがて私の意識は遠く途切れた。