ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

エミちゃんとカフェで別れ、アパートへ帰るついでに、少しだけ散歩をした。

もうすぐこの町を離れる。町からヴァンパイアの館も消える。

そう思うと、カバンを肩にかけたまま、私の足は自然と館の前へやって来ていた。

館の入り口の前には桜の木があり、もういくつか蕾が顔を見せている。

二年前まで、この木が桜の木だとは知らなかった。

葉もつけず、花も咲かない枯れた木だったからだ。今はまるで呪いから解かれたように、花を咲かせようとしている。

館の門には立ち入り禁止のプレートが立てられていたけれど、私はそこをスカートのまま跨いでいく。

ついさっきまで市の職員がいたのか、かすかに埃が舞っていた。

自分のヒールの音が、少し遅れて鈍く響いている。

ここへ来るときの目的はいつも決まっていた。

私は暖炉の前へ近づいて、誰もいないそれと向き合ってしゃがんだ。

「……シュヴァルツさん。私、もうすぐこの町を離れます」

呟きはほんの小さい声なのに、じんわりとこの空間に響いていく。

二年間、私は忘れられない彼を、ずっとここで待ち続けていた。

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