ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
落ち着いて、まずはいつもの笑顔を作った。
もともと垂れ目であることを利用すれば、目を細めるとおっとりとした笑顔が作れる。
次に、深呼吸をしてから、軽くお辞儀をする。
「ありがとうございます。でも、すみません。今日はちょっと用事があります」
「そっか」
「はい。また今度、是非」
うまく切り抜けた。
ふーっと長い息が出たあと、一瞬張りつめた緊張から解き放たれ、今度は安堵が顔に出た。
「……白雪さんさ、ちょっと言ってもいい?」
加賀先輩はきっと今の私の変化を見逃さなかった。
彼の声色は不機嫌なものになり、まっすぐこちらを見ている。
先輩の向こう、研究室の窓から見える空は灰色に濁っており、目の前の彼の機嫌も、おそらくこの空と同じくらい濁っているのだと肌で感じた。
「な、何でしょうか……?」
「前から思ってたんだけど、今みたいの良くないと思うよ。付き合い悪すぎ。愛想笑いで済まそうとしてるでしょ」
胸に刃が突き刺さるようだった。
私はまた緊張状態に引き戻され、それどころか今度は混乱状態に陥った。肩にバッグを掛けたまま、彼の前で縮こまる。
「あの、先輩、すみません……」
「俺だって白雪さんとただご飯が食べたくて誘ってるわけじゃないんだよ。こういうのは、チームのコミュニケーションの一環なんだから」