ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
「白雪さんも気を付けなよ」
しばらく放心していた私に、加賀先輩が呼び掛けた。
「そ、そうですね」
「よし、じゃあ暗くなってきたし、そろそろ切り上げようか」
ほっ……と息をつき、緊張が解けた。
器具の片付けがスムーズに終わり、薬品棚を施錠した。シャーレを入れたインキュベータの設定温度も再度点検し、何も問題ないことを確認する。
これで今日の行程はすべて終了し、私は白衣を脱ぐ。
「ねえ、白雪さん」
ギクリ。このタイミングでの加賀先輩からの呼び声に、体が跳ねた。嫌な予感……。
「は、はい」
白衣を脱いでお洒落な私服姿になった先輩がすぐ後ろに立っていて、明るく微笑んでいる。
その眩しい笑顔に反比例するように、私の体は冷えていき、ドクンドクンと心臓が病気のように鳴り始めた。
「疲れたでしょ。飯でも行かない?奢るよ。帰りも送るし」
「あ……ご飯、ですか?」
誘いを受けたと分かったとたん、一瞬で呼吸が細かくなり、胸が苦しくなる。