ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
分かってる。
先輩は私と違って人付き合いが得意だから、こうして内気な私にも声をかけてくれて、今も親切で忠告してくれたのだと思う。
分かってるけど……。
私は、こう言われてもさらに、どう言って断ろうかとということばかりを考えているのだ。
「ありがとうございます。いつも申し訳ないのですが……本当に、用事がありまして……」
「今は受け身でも困らないだろうけど、そんな態度だと、そのうち誰にも助けてもらえなくなるよ。まあ、白雪さんみたいに頭も良くて可愛い子は、愛想笑いしてれば人生楽なんだろうけどね」
先輩はカバンの中に荷物をしまいながらそう言った。
彼からは、弱気な私になら何を言ってもいい、そんな自棄すら感じる。
愛想笑いしかできない私が、楽だなんて……。
心にぷすりと穴を開けられた気分になり、その穴から悔しさがじわりと滲んでくる。
「ま、いいけどね。ごめんね、俺お節介だからさ」
先輩は立ち尽くす私をよそにひとりで戸締まりを終わらせて、カバンをかけ直して背を見せると、先に研究室を出て、廊下を歩いていった。
私は立ち止まったまま、その背をじっと見つめた。