ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
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上空を移動してからしばらく経つと、政府高官たちが集まっているという、“議事堂”というに相応しい建物が見えてきた。
年期の入った石造りのそれは、華美な彫刻がいくつも施されており、入り口から左右対称に伸びてい外壁は、近づくと全体像がつかめないほど大きい。
周囲を歩いているヴァンパイアたちは小人くらいに見えたが、彼らがシュヴァルツさんと同じ服を着ていることがどうにか分かった。
その議事堂の上部には時計台があり、シュヴァルツさんは議事堂の入り口に降りるのではなく、その時計台へと近づいて行く。
文字盤のすぐ側まで来ると、一本だけの針は私の身長ほどの長さがあり、遠目で見たときより数段大きかった。
私達は時計台の上に降り立った。
そこは柵に囲われた五十メートル四方の吹き抜けた場所で、まだ空の上にいるのではと思うほど高い位置にあり、その隅の方で、誰かが寝転んでいた。
目を細めると、その人は若い男の人だと分かる。
彼もシュヴァルツさんと同じ制服を着ているが、ふたりの印象はまったく違い、明るい茶髪をルーズに束ねたその人は、組んだ足をこちらに向け、気持ち良さそうに眠っている。
「アルバ」
シュヴァルツさんがその人を呼ぶと、こちらに向いていた足のブーツがピクリと揺れた。