紙切れ一枚の約束

「永訣」

 妹尾は、目を見開いた。その目には、学生時代と同じ明るく元気な妹尾の命の灯が光っていた。
「あら、妹尾。あんた、ワイシャツのポケットだけ乾かないわね。何か濡れてるんじゃない?」
私が声をかけると、妹尾はあっと思い出したようにポケットから一枚の写真を取り出した。その写真は、雨ですっかり濡れてしまい、びりびりに引き裂くことができるくらいにもろくなっていた。妹尾は、それをあっさりと破った。
「いいの?」
「いいんですよ。嫁の写真です。未練があって。でも、紙切れ一枚、思い出にもしたくないから、今日ここでお別れです」
破いた写真をごみ箱に捨てると、妹尾は立ち上がった。昔のような彼に戻ってくれてよかった……。彼と二人でマスターにあいさつし、外に出ながら、私は真壁さんにお断りのメッセージを送ろうと決心していた。
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