千一夜物語
痛い…

傷口が燃えるように熱くて痛くて、一体何が起きたのだろうか…?


「良かった…黒縫、目が覚めたわ」


『良うございました』


「俺…は…?」


「ここは納戸です。ごめんなさい、母屋の方に知らない方を連れて行くと私が勝手に出かけていたことが知られちゃうから」


痛みに苦しみながらうっすら目を開けると、先程の少女が心配そうな顔をして見下ろしていた。

納戸と言ったが立派なもので、ちゃんと身体に布団もかけられているし、物もきちんと片付けられている。


「お前は…妖だな?」


「はい。黒縫は私が生まれた時からずっとお友達なの。お父様たちの目を盗んで一緒に出掛けていたらはぐれちゃって…そしたらこんなことに…。ごめんなさい」


――すぐにどこかの良家の娘だと分かった。

人型で美しく、容姿の美しさは妖にとって強さの目安である。

胸の傷口に触れてみると布を巻かれていて、痛みに顔をしかめながら起き上がった。


少女は夜叉の仮面をつけているいかにも怪しい男に警戒心すら見せず、逆に黎はそれが不思議で膝に顎を乗せてきた黒縫の頭を撫でながら問うた。


「こんな怪しい男を家に引っ張り込んでいいのか?」


「黒縫を助けてくれたから怪しい男なんかじゃありません。黒縫だって見知らぬ人にこうして懐く子じゃないの。あなたも妖なんでしょう?」


「そうだ。……お前、歳はいくつだ?」


歳を聞いた途端少女が頬を膨らませた。

黒縫がふふふと含み笑いを漏らして少女を茶化した。


『また訊かれましたね』


「そうね、全く失礼なことだわ。あなた…私を幼子だと思っているんでしょう?言っておきますけど、私これでも成人しているのよ」


「…は?嘘をつくな。どう見ても成人なんかしてない」


「してます!黒縫、やっぱりこの人失礼な人だわ。追い払ってしまおうかしら」


ふっと雰囲気が和らぐと、少女――いや、女は驚くべきことを平然と明かした。


「私の名は澪(みお)と言います。真名だけれど、誰に呼ばれても構わないから明かすわ」


「……澪、か」


――黎に真名を呟かれると、澪はなんだか胸が少しざわざわして照れたように微笑んだ。


「あなたのお名前は?」


「俺は……」


黎が名乗ろうとした時――遠くから誰かの声が聞こえた。
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