年下御曹司は初恋の君を離さない
「貴女も試食してみませんか?」
「え……?」
唖然としたまま藤司さんを見つめると、彼は先ほどまで私に見せていた顔とは別の顔を見せてきた。
さっきは明らかに私のことを覚えている様子だったのだが、今の彼は初対面の人への対応の仕方をしている。
ビジネスが絡んでいることを踏まえ、初対面同士を装うつもりだろうか。
確かに、ここで知り合いだと藤司さんは言いづらいのだろう。
なんと言っても、小華和堂の副社長がいるのである。
普通に考えれば、私と知り合いだということを隠しておいた方が得策だと思うだろう。
彼は私を一方的に傷つけてきた張本人だ。
それを私の口から暴露されることを考えたら、「知り合いじゃあありません」という意思を貫いた方がいいだろう。
知らないと言い通せば、私が万が一何か彼の不利益なことを口走ったとしても「何をおっしゃっているのか、わかりかねますね」の一言で逃げることが可能なはずである。
私にしたって藤司さんと知り合いだということは友紀ちゃんには隠したい。
友紀ちゃんのことだ。藤司さんが私のトラウマの原因だと知ったら……なんだか恐ろしいことになりそうだ。
それに、藤司さんの目の前にいる友紀ちゃんは、小華和堂副社長の顔をしている。
ビジネスに繋げようとしている上司の足を、秘書である私が引っ張る訳にはいかないのだ。