年下御曹司は初恋の君を離さない


 
「貴女は背も高く、スラリとした体躯だ。その上、キレイな顔。ミステリアスな雰囲気に男たちは心を奪われた。だからこそ、そんな輩たちに対抗するために、貴女は男装をすることにした。そうですよね?」
「……」

 キレイな顔かどうかは自分ではよくわからないが、彼の言う通りだ。
 大学生になって電車で通学するたび、痴漢に遭うようになってしまった。
 痴漢もイヤだったが、その延長線上でストーカーのようにつけ回される事態にまでなってしまったのだ。

 さすがに恐怖を感じた私は、一つの対策として男性っぽく振る舞うことにした。
 その対策を思いついたのは、高校生の頃を思い出したからだ。

 私は女子校に通っていたのだが、私の容姿は女子の間で評判だった。
 有名歌劇団の男役のような風貌をしていたためだとは思うが、バレンタインデーでは、そこらの男たちよりチョコの数は多かったはず。それだけ女子にモテていたのだ。

 外では徹底的に男のように振る舞おう。そう心に誓うと、嘘みたいに痴漢に遭わなくなった。
 だから、私は大学生の間、身近な人以外には男のように振る舞っていたのだ。

 そのときは、それで良かったと思っていた。
 自分の身を守ることができていると確信もしていた。
 だが、それは大きな間違いだったと今ならわかる。

 冷や汗が背中を伝っていくのがわかった。だが、私にはどうすることもできない。

「さて、未来さん。あのとき、俺が貴女にかけた言葉を覚えていますか?」
「っ!」

 彼は私を抱きしめ、耳元で囁いた。

「未来さん、覚悟してくださいね」
「なっ……!?」

 低くてセクシーな男性の声。何もかもが変わってしまった彼を見て、私はただ口をぽっかりと開けていることしかできなかった。 
 
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