年下御曹司は初恋の君を離さない
「え?」
どうして彼は私の手を掴んでいるのだろう。お願いだから、離してほしい。
こんな惨めな思いはこれ以上したくはないのに、友紀ちゃんは私の手首を掴んで離してくれない。
真摯な瞳で私を見つめたあと、彼はとびっきりの笑顔を浮かべた。
『紹介いたします。私の専属秘書であり、婚約者でもある久保未来さんです』
一瞬何を言われたのかわからなかった。マスコミ関係者も呆気にとられている。
それもそうだろう。彼の隣に並んだ茶道の大家の孫娘である畠山さんとの婚約発表かと誰しもが思ったはずだ。
だが、友紀ちゃんは彼女の名前を言わなかった。彼が声に出して伝えたのは、私の名前…?
ただ、この静寂の瞬間。畠山さんの声だけが響いた。
「どういうことよ! この場で私との婚約発表をする手筈だったのに!」
「どういうことか聞きたいのは私の方ですね。今日のプレスリリース後の取材はプライベートはNGでお願いしていたはず。それなのに、婚約発表とは聞き捨てなりませんね」
「っ」
「大方、貴女がマスコミに前もってこの場で聞くようにと指示したのでしょうけど」
「……」
「まぁ、いい機会をいただいたので、思わず私の大事な婚約者を紹介してしまいましたけどね」
友紀ちゃんはクツクツと笑いながら、私の肩を引き寄せた。そんな私たちを見て、畠山さんの眦が上がる。