翼の折れた鳥たちは


会場の体育館の入り口を入ると、私が想像していた以上の人ごみだった。

お目当ての選手のユニホームを着ている子供たちや、チームカラーのタオルを首にかけているカップルもいて、会場の熱気も伝わってくる。

敦也くんが深くかぶったキャップの下から、辺りをきょろきょろと見回す。

「葵ちゃん、ここってエレベーターあるの?」

「うん、もちろん。車いす用のトイレも完備してあるって」


観客席のある2階まで通じるエレベーターは完備してある。

だけど、敦也くんに準備されている席までには階段があって、しかも通路自体も狭い。

きっと敦也くんがこのことを知ると、行くこと自体を止めようと言い出すだろうと思って言わずにここまで来てしまった。


そろそろ、タイムリミット。敦也くんに言わなきゃ。

私の胸が緊張のせいでバクバクと音を立て始めた。

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