翼の折れた鳥たちは
何も喋らずにベンチから立ち上がり、非常階段のある扉の方まで歩き始めたチカラくんの背中を見送る。

ふと、何かを思い出したようなチカラくんが私の方へと振り返った。

「葵ちゃん……」

「どうしたの?」

少しだけ思い詰めた表情でチカラくんが口を開く。


「……俺じゃ、だめかな?」

「えっ?」

急に2人の間に風が吹いてきて、聞こえなかった言葉を聞き返した私にチカラくんは私を真っすぐに見つめて、もう一度口を開く。


「敦也を車いすバスケの見学に連れていくのって、俺じゃダメかな?」

私には思いもよらない提案で、チカラくんに貰ったペットボトルを手から滑らせてしまったんだった。


< 215 / 290 >

この作品をシェア

pagetop