ドS上司の意外な一面
意外な一面 Wedding狂想曲(ラプソディ)2
***

 私は定時に出社し、自宅に帰宅した。正仁さんは残業の予定。ハネムーンで数日のお休みを確保するために、前倒しで仕事をしているから。

「昨日より遅いな……」

 課長さんになってまだ日が浅いし、慣れない仕事だって大変なんだろう。それなのに私ったら――

『変なモノ、飛ばさないで下さい』

 思いにまかせて文句を言ったときに、正仁さんの悲しそうな眼差しがグサッと私の心に突き刺さって――だけど言ってしまった以上は後戻りができなくて、自分の傷を隠そうと言いたいことだけを告げてしまった。

 正仁さんが私を、心配してるのが分かっているのにね。心配だけじゃなく私のことを……。

「まったくもぅ、困った人なんだから」

 私みたいなどこにでもいる普通な女の、どこに惹かれたのやら。

 山田さんの奥さんみたいにスレンダーな美人でないし、山田さんの上司(:今川真人(いまがわまさと)愛称マット)の奥さんみたく、ナイスバディで愛らしい顔立ちをしてるワケでもない。

 小首を傾げながら、両腕を組んで考えてみた。

 名前で呼んでくれないことと、もしかしたら何か関連性があるのかな?

「そういえば……」

 ここ一週間、夜の営みがご無沙汰していた。正仁さんから押し倒されることもないし、会社でもイタズラされていない。むしろ避けられている感がある――

 私から正仁さんに何かスルなんて考えただけで大胆不敵な行為だけど、本人はすっごく喜びそう。

 組んでた両腕をほどいて、赤くなったであろうほっぺたをペシペシする。

「――正仁さん、遅いな」

 一瞬浮気の二文字が脳裏を横切った。それを振り払うべく、頭を横に激しく振る。

 浮気なんてあり得ない。だって正仁さんは私に、ぞっこんラブなんだからっ!

「だけど……」

 んもぅ妻の座を手に入れたから、逃げることはないだろうとか考えて、

『次の恋愛、行ってみよう』

 なぁんてことをしていたら、本当にどうしよう。絶対、浮気しない旦那様だと分かっているのに、頭がぐるぐるしちゃう。

 正仁さんは会社ではカマキリって恐れられてるから、むやみに手を出す女なんていない……と思いたい。

『まったく、君の考えは浅慮なんですよ』

 ――って片側の口角上げながら、見事に一蹴されるんだろうな。でも一蹴りされた方が、逆にスッキリするかも。

 正仁さん、早く帰ってきて。モヤモヤが止まらないよ~。

 ため息一つついて玄関を見つめると、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえてきた。
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