朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】


私の様子がおかしいことなんか、流夜くんには探るまでもなくわかってしまうようだ。


「なんも……ないよ」
 

何もなくてこんな声の揺れ方をするわけがないことなんかも、お見通しだろう。


頬に片手をかけて上向かされた。


「咲桜。俺は、なんだ?」


「え? 流夜くんは、……流夜くん?」
 

意味がわからずそう答えると、流夜くんは大きく肯く。


「そうだよ。お前の男だ。言いたいことがあるなら全部言っていい。誰に対するものでも、俺に対するものでもいいから。抱え込まれる方が、俺は嫌だ」
 

宣言されると、両瞳からぶわっと涙がこぼれた。


流夜くんの言葉が、限界を壊した。


さすがにそれは予想外だったのか、流夜くんはぎょっと目を見開く。


「咲桜? ああもう」
 

声がないほど喉をひくつかせてしまっている私を、流夜くんは抱き込んだ。


「大丈夫だから。咲桜にも俺にも悪いことなんて起きてない。誰にばれそうだとか、そういうことは全然ないから――俺が言ってるの見当違いかな。喋れたら、ゆっくり話してくれないか?」
 

ぽんぽんと背中を叩かれて、ぎゅっと服を握りこんで抱き付いた。


「あの、人……だれ?」

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