クールな上司は確信犯
◆おまけのお話◆

公私混同

人事部へ加勢へ来てから早半年。
今日もいつも通り仕事をこなす。
けれど今日はなぜか居心地が悪い。
和泉が険しい顔をしながらため息を付いているからだ。
ポーカーフェイスな和泉なのに珍しいこともあるもんだと、有希は気になって仕方がない。
和泉がマグカップを持って席を立ったのを確認して、有希もこっそり給湯室へ出向いた。

難しい顔をした和泉が、壁にもたれながらバリスタでコーヒーを入れている。
給湯室に和泉しかいないことを確認して、有希は話しかけた。

「和泉課長、どうかしたんですか?」

和泉はちらりと有希を見やると、ため息混じりに呟く。

「課長というものは無力だな。所詮、部長には勝てない。」
「…はい?」
「課長権限なんてたいしたことないという話だ。」

意味がわからず、首をかしげる。
何かあったのだろうか?

「有希。」

おーい、和泉さーん。
プライベートモードになってますよー。
有希は「岡崎です」と訂正を促すが、全くもってスルーされる。

「有希の加勢が終了するかもしれない。派遣を入れるそうだ。まあ、総務からも早めに返せと言われていたしな。それを俺が無理やり引き止めているだけなのだが。」

そう言って、和泉は考え込んでしまう。

有希は総務部から加勢で人事部にきているだけだ。
いつかは総務部へ戻らなければいけない。
それは重々承知だが、戻ってしまうと和泉と社内で会うことは滅多になくなってしまう。
公私混同はしない。
当たり前のことだけど、それがひどく寂しく感じられる。

だが、総務からも早めに返せと言われているということは、総務部でも有希を必要としている証拠だ。
必要とされるのは嬉しい。
だけど本音は和泉と一緒に仕事をしたい。

仕事も大切。
和泉も大切。

「さて、どうしたもんか。」

本気で悩んでいる和泉に、有希は苦笑した。
公私混同はしないなんてクールに言っていた和泉の顔が思い出される。

和泉さんが進んで公私混同している気がするんですけど。
本人にその自覚はないのかしら?

眉間にシワを寄せた和泉に、違った意味で有希も眉根を寄せた。
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