誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 体は相変わらず抱き寄せられたまま、時折トントン、と子供をあやすように背中を叩かれる。

(神尾さん……優しいな……)

 彼に憧れている小春としては複雑だったが、確かに、閑の腕の中に抱かれていると、胸にじわっと広がる不安が、次第におさまってくる。

「す――すみません……」

 謝ってばかりだが、小春としては謝るしかない。

「謝らなくていい」

 閑はそのまま小春の肩を抱いて、廊下に置いてある長椅子に座らせた。

「とりあえずやることは、入院の手続きと、キミさんへの連絡だ。店は当分休みにするしかないけど、きっと商店街の人たちが協力してくれる」
「はい……」

 小春はこくりとうなずいて、目の前に立っている閑を見あげる。
 すると閑はにこっと、いつものように優しく笑って、

「泣き虫だな」

 と、小春の頬に残る涙を指ですくうようにしてぬぐい、それから顔を近づけた。

「安心しなさい。なにかあったら、力になるから。まぁ、法律家の俺の出番なんてないにこしたことはないけど」
「――そうですね」

 大将が元気になって、店を再開すればなにもかも元通りだ。

 こんなこともあったねと後々笑い話になるだろう。
 小春はそう思ったのだが、それほど日が経たぬうちに、事態は急変した。

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