誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「えっ、店を閉める!?」

 入院して十日ほどが経ち、退院する数日前のこと。すっかり元気になった大将の見舞いに行った小春は、着替えの袋をそのまま足元に落としてしまった。

「あっ……ごめんなさい」

 慌てて拾上げたが、六人部屋のベッドで上半身を起こした大将は、申し訳なさそうに小春を見上げ、「ごめんな」とつぶやいた。

「今回倒れて、ちょっと考えたんだけどよ。大事に至らなかったとはいえ、キミも心配してな。前々からもう少し休めって、小春ちゃんにも言われてたんだけど、俺が言うこと聞かなかったもんだから……こんなことになっただろ?」
「はい……」

 小春は唇を噛みしめながら、ベッド横にパイプ椅子を出して腰を下ろす。
 確かに一度倒れているのだ。次がないとは言い切れない。

「じゃあ、料理、辞めてしまうってこと……?」

 大将の店である【なかもと食堂】には、思い出がたくさんある。小春だって毎日、あそこに立っていたのだ。だが自分のわがままでそれを無理に残せとはとても言えない。

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