誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
だが、女性が元依頼人なら、話は別だ。守秘義務もあるだろう。依頼人のことを、一から十まで、話せるわけがない。だから嘘をついた。
小さな嘘。ただそれだけのことだ。
小春を傷つけるためについた嘘じゃない。
なにより、職務に真摯な閑のことだ。今日の説明だって、死ぬほど悩んだに違いない。
(なのに私、勝手に嫉妬して……八つ当たりして……!)
話そうとしてくれた閑から逃げようとした。
あなたと私は、関係ないと、切り捨て、歩み寄ろうとする閑を拒絶し、傷つけた。
「ううっ……」
涙がぽろぽろとこぼれる。
だが必死で唇をかみしめて、嗚咽を飲み込む。
(私に泣く権利なんかない……)
このまま消え入りたかった。情けなかった。人として、最低なことをしてしまったという自覚はある。
だがここで声を出して泣けば、閑に気づかれてしまう。
彼は何も悪くないのに、きっと閑は小春に謝ってしまうだろう。
これ以上、閑に迷惑を掛けたくない。
「うっ……ううっ……」
両手で口元を押さえて、その場にしゃがみこむ。
(馬鹿、泣くな、小春……泣くなっ……)
必死で息を呑みこんで、小春は冷たい床に、何時間もじっと座り込んでいた――。