誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 泣きそうになるのを、こらえながら問いかけると、

「いやぁ……実はな、ついさっき増井から連絡あってな。こっちに来て、店を手伝ってくれないかって言われてな」
「――えっ、お父さんに?」

 思わぬ展開に、小春の大きな目が、まん丸に見開かれた。

 父と中本は、三十年前、同じホテルに勤めてからの大親友だ。
 年はいくつか中本の方が上だが、豪快な中本と、少しばかり神経質なところがある小春の父は、なぜかうまがあったらしい。中本が妻を病気で亡くし、ホテルを辞めて食堂をひらいてからも、二十年近く、家族ぐるみの付き合いをしてきた。

 十年前、離婚を機に小春の父もホテルを辞め、小春を連れて故郷である徳島に戻り、イタリアンレストランを始めた。小春も当然徳島に引っ越し、広大で豊かな自然のもと、のんびり、のびのびと暮らしていたのだが、父が再婚したのを機に、東京に出てきたのだ。

「やっぱり店を維持するのは大変だし、でも、増井の店なら手伝うのもいいかなーってな。あいつなら信頼できるし……それに徳島、いいところだしなぁ……」

 中本は少し伸びたあご髭をゴシゴシとこすりながら、懐かしそうに目を細める。

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