誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「ほら、小春ちゃんも実家に帰って、また増井の店を手伝ってくれたらいいじゃないか。あいつもそれを望んでるみたいだしよ」
「そう、ですね……」

 小春はそれ以上なにも言えないまま、うなずくしかなかった。




 病院内のコインランドリーには、人がいなかった。
 小春は洗濯の名目でその場を離れて、ぼんやりと考えて居た。

(実家に帰る……?)

 別に実家が嫌なわけじゃない。
 確かに父は再婚したが、義理の母となる人は、数年前から店のホール係として働いてくれていた父と同年代の落ち着いた女性だ。お互いバツイチ同士で、再婚するとは考えていなかったようだが、結局将来を共にすることを選んだらしい。
 反対する要素はなにひとつなかった。むしろ父を支えてくれる存在は、大歓迎だった。

 大学を卒業した後、父のレストランを手伝っていた小春は、義母の存在がいたからこそ、また東京で暮してみたいと思ったのである。

 そしてつい十日ほど前まで、東京の下町での、のんびりした日常が続くと思っていたのに、それが突然終わりそうになっていることに、頭がついていかなかった。


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