誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「私……店をたたむって言われて、寂しくなってしまって……もちろん中本のおじさんの体調が一番だから、それがいいって頭ではわかってるんですけど……」
「わかるよ。故郷がなくなるような気がするんだろう」
「そうなんです」
テーブル席が三つ、あとはL字型のカウンターに五人座れるだけの店だが、ずっと大将がひとりで切り盛りしていた。
小春は二年前から住み込みで【なかもと食堂】で働いていたのだが、いくら料理ができても、大将にはとうてい及ばないし、自分が大将の代わりになれるわけではない。
大将あっての食堂なのだ。
「勝手なんですけどね」
小春はなんとか笑顔を作って、頬にかかる髪を耳に掛けながら、閑を見あげた。
「お店のこと、私からもお願いします。大将がまた新しい人生を歩めるように、手伝ってください」
「ああ、わかった」
閑はしっかりとうなずいて、それから軽く体の前で腕を組んで、小春の顔を覗き込んだ。
「――で、店はいいとして。小春ちゃんはどうするの?」
「私は……」
まさにそのことを、小春は乾燥機を眺めながら悩んでいたのだ。