誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「恥ずかしながら、東京に出てきたのは、なんとなくなんです。あのまま父のレストランを手伝ってもよかったけれど、十代の半ばまでいた東京がなんとなく懐かしくなって……父が再婚したのなら、私が側にいなくてもいいだろうって、それでなんとなく出てきて……」

 改めて口で説明すると少し恥ずかしいが、これが自分の正直な気持ちなのだ。それに嘘をついたって、聡い閑に誤魔化しは通用しないことはわかっている。

「なんとなく出てきたんだから……帰ろうかなって……」

 そう口にしながら、小春の表情はどんよりと暗くなってしまった。

「……帰りたくなさそうだ」
「…………」

 閑の指摘に、小春は口ごもる。

 確かに彼の言うとおり、自分は“帰りたくない”と思っている。
 だが人に説明できる、理由がない。
 夢や目標があって、どうしても東京にいたいという理由があるなら、まだしも、なんとなくでは言い訳にならないではないか。だから帰るしかないのだろうと、自分に言い聞かせている。

 それに父だって、中本のおじさんだって、それを望むだろう……。



< 17 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop