誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

(私……本当にこの人が、好きだ)

 小春の胸に、確信のような思いが広がる。

 自分の気持ちは、今まで自分ひとりのものだった。
 静かな水面に小石を落とせば、波紋が広がる。誰かの心を揺らして、自分に返ってくることが怖かった。
 かつて小春を置いていった母のように、愛されもしないのに、誰かを好きになって、拒絶されるのが怖かった。

(この恋の先にあるものは、まだなにかわからない……だけど……。私は今、すごく……すごく……幸せだ)

 そう、幸せだった。

 好きな人に好きと言えた自分が、恥ずかしくも、誇らしくもあった。

(こんなこと、みんな普通に、できていることかもしれないけれど……他人から見たら、ばかみたいなことかもしれないけれど……それでも私には、一大決心なんだ……)

「小春……」

 もう、“小春ちゃん”ではなかった。

 シンプルに名前を呼ばれて、胸がギュッとしめつけられる。

「はい……」

 小春は涙をこらえてうなずいた。

 うなずいた小春の唇が、閑によってふさがれる。

 食堂でいきなりキスされたときとは少し違う。

< 161 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop