誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「だって……」
「だってじゃなくて」

 口ごもる小春を、閑はなぜか許さなかった。
 小春を追い詰めるような物言いで、追及の手を緩めない。

「思っていることを、はっきり口に出したらどう?」
「……っ」

 その一言に、小春は息を呑んだ。

 小春は、ずっと物心ついたときから、この調子だった。おっとりといえば聞こえはいいが、あまり自己主張をしない子だった。あれをしたい、これをしたいと思う事も、口にしたことがなかった。

 小春はそんな自分を主体性がない人間なのだと思っていたが、ひそかに憧れている閑にそれを指摘されたような気がして、ぐさりと胸に刺さるものがあった。

 小春は顔を上げて、隣で小春の返事を待つ閑を見あげた。

「わっ……私っ……」

 閑の茶色い瞳と、視線がぶつかる。

 こはく色に似たその美しい目に、自分の影が映る。

 その瞬間、小春は理解した。

(私が……私が、ここにいたいのは……神尾さんと、離れたくないからだ……!)

 ああ、そうだ。これは勝手な片思いだ。
 彼にとって自分は、たまに通う店で働く一店員に過ぎない。思いが通じるはずもないし、言うつもりもない。

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