誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
なのに――離れたくないと言う理由で残りたいなんて、彼に向かって言えるはずがない。
(どうしよう……)
頬に熱が集まり、目の縁にじんわりと涙が浮かんだ。
もともと人に誇れるなにかを持っているわけではない。けれどこれ以上、軽蔑されたり、がっかりされたくなかった。
こんな自分を、ひそかに思っている閑に見られたくない。知られたくない。
とっさに逃げようとしたが、それよりも早く先周りする形で、閑が小春の手首をつかんでいた。
腕を引いたが、びくともしない。
閑はしっかりと小春を見つめたまま、言い聞かせるかのように口を開いた。
「理由なんて、本当は言っても言わなくてもいい」
「え……?」
どういうことかと小春は目を見開く。
「大事なことは、自分で決めて、行動することだ。君は少しいい子過ぎる。自分の気持ちよりも、こうしたほうがいいんじゃないかって、考えてる。そうじゃない。誰も君に、そんなことを望んでいない。だから自分の気持ちを大事にするべきだ。悩むのは後でいい」
その言葉はまっすぐに小春に届いて、胸を打った。
「神尾さん……」
小春の目に、さっきとは違う涙が浮かぶ。