誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 本当は彼にとって、自分の存在などどうでもいいはずだ。
 なのに親身になろうとしてくれている。その気持ちが嬉しかった。

(ああ、やっぱり……私はこの人が、好きなんだ……)

「のっ……残りたいですっ……ここで、この町で、暮らしていたいですっ……」

 小春は叫んでいた。身を絞るようにして、そう口にしていた。
 あなたが好きだとは言えなかったけれど、これは小春にとって大進歩だった。

 それを聞いて、閑がふっと表情を和らげる。

「よかった。これで君の力になれる」

 その言葉は、弁護士としての職務の延長上でしかないのかもしれないけれど、小春にはそれで十分だった。

「っ……ありがとうございます!」

 掴まれていた手首は自由になったが、小春はそのまま体当たりをするようにして閑に抱き着いていた。
 もうなにも考えていなかった。そうしたかったからそうしたのだ。

「わっ……」

 一方飛びつかれた閑は、驚いたように声をあげたが、苦笑したあとは、しっかりと小春を抱きとめる。そしてまた、ぽろぽろと涙をこぼす小春の背中をトントンと叩きながら、優しく微笑んだのだった。


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