誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 他人から見れば、さぞかしもどかしいだろう。だが小春はそういう少女だったのだ。

 けれど、もし、あの時、自分が行動を起こしていたら、なにか変わっていただろうか?
 夫婦間に決定的な亀裂が入る前に、自分が声を上げていたら、もしかしたら――?

 ――ガタン。

 バスが揺れる。

「あ……」

 振動で、うたたねから覚めてしまったらしい。

 目を開けると、外は真っ暗で、バスの窓に自分の顔が映った。

 おさげではない。ストレートの長い髪が、セーターを着た肩を覆っている。

(大人の、私……だ)

 あれから十年。
 世間では二十四歳は立派な大人だ。

 だが、おさげの頃の自分と今の自分に、どれだけ差があるのだろう。

 子供の頃は、二十歳を過ぎれば当然大人になって、きちんとしていると思ったのに、打たれ弱く、紙のようにペラペラに薄いメンタルは、十四歳の頃とさして変わっていない。


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