誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
電話の向こうの希美は、一度決めたらてこでも動かない、父の性格をよく理解しているのだろう。心配しつつも、仕方ないと思っているようだった。
『で、年内はうちにいるからいいとして……来年以降はどうするの? どこかに家を借りるんでしょう?』
「ああ、キミちゃん、それがね……」
小春は少し困ったように、ため息をついた。
『あら、どうしたの? なにか問題でも?』
「うん……ちょっと……実はね」
口を開きかけた瞬間、
「こんにちは」
と、何の前触れもなく食堂の戸が開いた。
顔を出したのは小春の目下の悩みの種、神尾閑だった。黒い上等なコートに身を包んだ彼は、またハッとするほど凛々しい。手には大きめの封筒を持っている。
「神尾さん。おじさんは、商店街の寄り合いに、出かけているんですが」
「俺の用事は小春ちゃんだから、大丈夫だよ」
閑はやんわりと首を振り、そのままカウンターへと近づいてきた。