誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「俺は毎朝自転車で、雨の日はメトロなんだけど」

 閑はそういいながら、サッと手を挙げてタクシーを停めた。

「はい……知っています」

 自転車にはうといのでさっぱりわからないが、閑が白いクロスバイクを通勤に使っているのは知っている。店の前を掃除していて、通りの向こうに、さっそうと自転車でやってくる彼を見かけた日は、一日嬉しかったものだ。
 そんな、ささやかな毎日を大事にしていた小春からしたら、この状況はまったくもって理解しがたい。

(私が、神尾さんと、一緒に住む!?)

 何度考えても、おかしいことこの上ない。

 閑とタクシーの後部座席に並んで座っても、それ以上先を考えることを、脳みそが拒否している。そのくらい小春は完全にテンパっていた。

「ここだよ」
「――はいっ!?」

 閑の掛け声にハッと、我を取り戻した小春が、タクシーから降りて見上げたのは、まるでホテルのようなたたずまいの、高層マンションだった。

(おっきい……!)


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