誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
あたりは楽しそうな人たちでいっぱいなのに、世界には、自分と閑、ふたりきりのような気がした。
小春はそっと、閑の腰に腕をまわし、もたれかかる。
これだけの人だ。少々くっついたところで、咎められることはないだろう。
「ね、小春」
「なんですか?」
「今すぐじゃなくてもいい。だけどいつか、俺の家族になって」
穏やかな閑の声は、まっすぐに小春を包み込む。
その瞬間、小春は泣きたいような、切ないような、嬉しいような、不思議な気持ちになって、鼻の奥がツンと痛くなった。
小春はコクコクとうなずいて、しがみついた腕に力を込める。
今はまだうまく言葉にできないけれど、いつかきっと、閑のささやかな望みを、叶えたいと思った。
心から――。
【あの夜のこと、疑わしきは罰せず】完結