誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
とにかく父は娘の自分に甘い。幼いころから、仕事や離婚のことで、寂しい思いをさせたと、今でも思っているようだ。だが、帰ってくるものと思っている娘が、帰ってこず、男性と一緒に住むと言い出したら、話は別だ。簡単に受け入れてもらえる気がしない。
それでも小春は、年末に帰省した時に父に話すつもりだった。
(別に一生、東京にいるわけじゃない……ただの思い出作りみたいなものだわ)
本人にマイナス一万点と言いはしたが、それで閑の魅力がなんら欠ける訳ではない。自分の平凡な人生で、ほんの数か月でも、好きな人と暮らしたという思い出があったって罰は当たらないだろう。
「なんですか、“そういうこと”って。変なこと言わないでもらえますかね」
そして一方、閑も不満そうに箸を置くと、テーブルの上に置いてあるビールの缶を、あおるようにして飲み干した。
「俺も小春ちゃんも、ちゃんとした大人なんですから。変な邪推はやめてくださいよ」
「へぇへぇ……わかったよ」
槇は肩をすくめて、また新しくビール缶を開ける。
「でもまぁ、“遠くて近きは、男女の仲”なんだがなぁ……」
男女の仲は、遠く離れて見えても、意外にも簡単に結ばれるということわざだ。
(まさか私たちに限って……)
小春はふふっと笑いながら、テーブルの上に“増殖”し始めた空き缶を片付けた。