誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 だが、思い返してみると、小春は誰にでも優しいし、基本的に笑顔だし、感じがいい。自分が特別な存在というわけではないだろう。

 好かれていると思った自分を殴りたくなったし、情けなくなった。

 閑にとって、小春はかわいい妹のような存在だった。
 だからできる限り、彼女の力になりたいと思ったし、全く知らない人間とルームシェアさせるくらいなら、自分の方がマシに決まっていると、半分保護者のような気持ちで思っていたのだが――。

(保護者? 違う。なに言い訳してたんだ。妹に欲情なんかするわけがない。俺は小春ちゃんが好きなんだ)

 目が覚めて、彼女がいないことに仰天した閑は、慌てて置きっぱなしの私服に着替え、なかもと食堂に向かった。
 いろいろ順番は間違ってしまったが、『真面目に付き合ってほしい』と告げるつもりだったのだ。
 そして食堂のドアを開けるまで、恥ずかしいことに、これをきっかけに新しい関係が始まるのだと思いこんでいた。

 小春に『忘れてほしい』と言われるまで、拒否されるという可能性を万に一つも考えなかった。


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