明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
どうしよう。
行基さんが怒るのも当たり前だ。


「そのようですね。大丈夫。行基さんにはそれとなく伝えておきます」


一ノ瀬さんは動揺する私を置いて帰っていった。


「とんでもないことを……」


旦那さまに向かって、芸妓になりたいだなんて失礼極まりない。


でも……母はそうすると、一橋の父に水揚げをされたのだろうか。

単に舞のうまい女性と父が恋に落ちたのではなく、そういう場所で知り合って……。
恋したのではなく、お金のために?

まつは、それを悟られまいとごまかしてくれたんだろうか。


実母のことを神聖化していた私にとっては衝撃な事実ではあったけど、真相は父に聞かなければわからない。

母は父に本気で恋をしたのかもしれないし、そうでないのかもしれない。

そして、妻がいたのに母に手を出した父の気持ちもわからない。


詮索するのはよそう。
過去のことを調べても、今さらどうにもならない。

私は行基さんと幸せになればいい。

そう気持ちを切り替え、彼が用意してくれた辞典をギュッと抱きしめた。
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