明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「行基さん、そろそろお願いします。あやさんも」


しばらく食べ進んだところで、うしろに控えていた一ノ瀬さんに促され席を立つ。
来賓の席に挨拶をして回るのだ。


「本日はお越しいただき大変光栄です。——妻のあやです。今後お世話になるかと」
「初めまして。どうぞよろしくお願いします」


何度も同じ台詞の繰り返し。
けれども、笑顔をつけることは忘れずに。


「その調子だ」


行基さんは慣れない私を気遣いつつ、ちょっとした雑談から商談へと持っていく。
その姿を見て、彼の能力の高さを思い知った。


「それでは次の取引は、前回の倍でお願いします」
「それは多すぎないかね、行基くん」

「いえ。今が攻めどきです。中国の市場はまだまだ拡大します。弊社の紡ぐ糸は西洋の物と比べ細くて丈夫だとの評価を得ています。倍では足りないくらいです」


行基さんは自信に満ちあふれた表情で話を進める。

その堂々たる立ち居振る舞いに、改めて好きが加速する。
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