明治蜜恋ロマン～御曹司は初心な新妻を溺愛する～

「あやさん、次は林田(はやしだ)さまにご挨拶をします」


行基さんが仕事の話している間に、一ノ瀬さんが耳元でそっと教えてくれた。


「はい。貿易商社の社長さんですね」
「すべて覚えられたのですか？」


彼が仰天しながらつぶやくのでうなずいた。

今日の出席者の名簿を預かり、誰がどんな人なのかは頭に入れてある。


それにしても一ノ瀬さんは行基さんがひとりの人との話に偏らないように場を取り仕切っているだけでなく、私のことまで視界に入れてくれている素晴らしい秘書だ。

行基さんが“片腕”と言うだけのことはある。


林田さまとの話が終わった頃、藤原さんがやってきて行基さんに耳打ちをしている。


「野村(のむら)さまがいらっしゃいました」


野村さまというのは今日の一番の目的人物。
仕事の都合で遅れてきたのだ。

彼は政府で輸出入に関する仕事についている重要な人物だ。

行基さんが手がける仕事の大きさを改めて思い知った。